— この記事の要点 —

競艇場で叫ばれる掛け声の大半は「差し」「まくり」「逃げ」など戦法名の命令形。元は競馬から流入した公営競技共通の文化で、競艇では決まり手と一致するため自然に定着した。初心者がまず覚えるべき定番は「頑張れー!」「させー!」「まくれー!」の 3 つ。一方で容姿批判・侮辱・脅迫は法的リスクのある NG 掛け声。意味と使い方、マナーの線引きまでまとめた完全ガイド。

公営競技共通の「声の文化」

大前提として押さえておきたいのは、「させー!」「まくれー!」は競艇場固有の掛け声ではない、ということ。競馬・競輪・競艇の公営競技で共通する文化の系譜にある。JRA UMAJO の公式コミック「まこのゆるっとケイバ LIFE」では、競馬の「差せー!」は罵声ではなく エール と明言されている。元は競馬の「最終直線で前の馬を抜け」が競艇に流入し、競艇では「差し」「まくり」が公式の決まり手として用語化されているため、戦法名の命令形がそのまま掛け声として定着した、という構造になっている。

もう一つ意外なのが、これらの声は実際に選手にも届いていること。元ボートレーサーによれば、フルフェイスヘルメットには通気穴があり、待機行動中 (低速時) は観客の声がはっきり耳に入る。1 マークと観客席が近い戸田平和島 (1 マーク幅員 37m、全国最狭タイ)、尼崎では特に届きやすい ── これを知ると、掛け声の重みが少し変わる。

掛け声 16 選 完全カタログ

主要な掛け声を 16 個 集めた。意味・元戦法・使うタイミング・派生形をセットでまとめている。詳細は各カードを開いて確認してほしい。

01させー!(差せー / 差す)
意味
内側コースの艇に「差し」(内艇の内側を突き抜ける) を決めろという応援。
元戦法
差し ── 1 マーク回り際に、先に回った内艇の内側を突く決まり手。2 号艇が最も使う戦法。
タイミング
1 マーク進入直前〜旋回中。内側コース (2-3 号艇) を本命にしているときに飛び交う。最終 2 マークでも使われる。
由来
競馬の「差せー!」が直接の祖。競馬では「最終直線で前の馬を抜け」の意味で、競艇では戦法名と一致してより明確に「差しを決めろ」に。
派生形
「させやー」「させろー」「さーせー」「差せ差せ差せ!」(連呼)。ネット上には「『差せ!差せ!差せ!』の方が『そのままぁ〜』より気持ちいい」というファンの声もある。
02まくれー!(捲れー)
意味
外側から内艇を一気に追い越せ、という応援。
元戦法
まくり ── 2〜6 コースの艇が、スピードを落とさず 1 マークで内艇の外側から抜く決まり手。
タイミング
1 マーク進入直前。外側コース (3-6 号艇) を本命にしているとき、または「1 コースを潰したい」場合。
由来
競馬の「まくれー!」と共通。競馬では「後方から 3 コーナー以降で一気に進出せよ」。
派生形
「まくれやー」「まくっちゃえー」「行けまくれー」。
03行けー!(いけー)
意味
汎用 GO。「先頭でそのまま行け」「加速しろ」など状況を選ばない万能掛け声。
元戦法
特定の戦法に紐づかない汎用応援。
タイミング
スタート時、加速時、ゴール直前、全フェーズで使える。
由来
一般的な応援句「行け!」の延長。元ボートレーサーの note でも代表的な掛け声として挙げられている。
派生形
「行けー◯号艇ー!」「行っちゃえー!」「いっけー!」。
04頑張れー!(がんばれー)
意味
純粋な応援。戦法指示ではなく「頑張って走ってくれ」のエール。
タイミング
全フェーズ。特に待機行動中や周回中。
由来
標準的な日本語応援。元レーサーの証言では、これと「頼むぞー!」「ナイスファイト!」が好印象な掛け声として挙げられている。
派生形
「がんばれ◯◯ (選手名) ー!」「ファイトー!」「ナイスファイトー!」。
05頼むぞー!(たのむぞー)
意味
「賭けてる、頼むから来てくれ」というファンの切実な祈り混じりの応援。
タイミング
直線、ゴール直前。
由来
観客が「自分の舟券」と一体になる感情の発露。
派生形
「頼むよー!」「頼むって!」「持ってくれよー!」。
06押さえろー!(おさえろー)
意味
1 コース艇に対する「内側を死守しろ、外から抜かれるな」の指示。
元戦法
逃げ ── 1 コース艇がスタートから先頭でゴール。1 コースの逃げ率は全国平均 55.9% で最大の決まり手。
タイミング
1 マーク進入時、特に 1 号艇を本命にしているとき。
由来
「押さえる」「押さえ込む」という戦法動詞から。舟券用語の「押さえ買い」とは別物。
派生形
「押さえー!」「押さえとけー!」「逃げろー!」(ほぼ同義)。
07逃げろー!(にげろー)
意味
1 コース艇に対して「先頭のまま逃げ切れ」。
元戦法
逃げ ── 1 コースの基本戦法。
タイミング
スタート直後〜1 マーク後の直線。
派生形
「行けー 1 号ー!」「逃げ逃げ逃げ!」。
08戻せー!(もどせー)
意味
主に 2 周目以降。前の艇に抜かれた・差された艇に「位置を取り戻せ」という応援。
タイミング
2 マーク以降、特に最終ラップ。
由来
「戻す」 ── 公式のレース用語ではないが、艇の位置回復の意で使う。競馬の「戻せー」と共通。
派生形
「戻せ戻せー!」「上がってこいー!」。
09抜けー!(ぬけー)
意味
「直線で前を抜け」というシンプルな指示。
元戦法
抜き ── 直線で加速や最高速で先行艇を追い抜く決まり手。
タイミング
直線、特に最終直線。
由来
「抜く」の命令形。競馬の「ぬけー!」と共通だが、競艇では決まり手としての「抜き」より、汎用的に「前を抜け」の意味で広く使われる。
派生形
「抜いてけー!」「ぶち抜けー!」。
10ツケろー!(つけまえー)
意味
「内艇に張り付いて、外から押さえつけて抜け」 ── 高難度技 ツケマイ の指示。
元戦法
ツケマイ ── 外側艇が内艇にピッタリつけて旋回し、引き波で内艇を沈めて抜く。
タイミング
1 マーク進入時。ベテラン観客や予想屋寄りの掛け声で、初心者ではあまり使わない。
由来
「ツケ」(付ける) + 「マイ」(回る)。ボート界では「回る = マイ」と表現する。
派生形
「ツケまえー!」(あまり一般的でない)。
11握れー!(にぎれー)
意味
「アクセル全開で行け」「全力ターンしろ」。スロットルレバーを握り込む動作から。
元戦法
握りまくり ── 全速ターンでまくりを決める高難度技。
タイミング
1 マーク進入直前。
由来
「握る」 = スロットルレバーを握り込む。「握れー!」はベテラン観客寄り。
派生形
「全速で行けー!」「ぶん回せー!」。
12絞れー!(しぼれー)
意味
「内艇の進入を妨げて、コースを絞り込め」。前付け抵抗時の指示。
元戦法
しぼり ── 新人は使用禁止という暗黙のルールがある高度な技 (日刊ゲンダイ「ボート界の暗黙ルール」記事)。
タイミング
待機行動〜進入時。
由来
「絞り込む」動作から。コア層用で、一般観客はあまり使わない。
派生形
ほぼなし。
13そのままー!(そのままー)
意味
「先頭のまま、追いつかれずに逃げ切れ」。
元戦法
逃げ (1 コース)。
タイミング
最終直線、ゴール手前。
由来
競馬で頻出。「させー!」と対になる掛け声 ── 前を追う側 vs 逃げ切る側。
派生形
「そのまま行けー!」「離せー!」。
14(選手名)ー!連呼コール
意味
推し選手の名前をフルネームや苗字で連呼する応援。
タイミング
全フェーズ。特にピット離れ帰着時
由来
推し活文化の延長。選手応援横断幕も同様で、各場の規定に従えば掲出可。
派生形
「峰くーん!」「西島ー!」など、ファンの愛称ベース。
注意
配信番組では選手の呼び捨てがクレーム対象になった事例あり (2026 年 3 月 デイリースポーツ)。場内の観客の連呼は許容範囲だが、敬意は意識される。
15ナイスファイト!(ないすふぁいとー)
意味
純粋なエール。レース後に多い。
タイミング
ゴール後、ピット帰着時。
由来
一般的な応援句。レーサーへの好印象掛け声の代表。
派生形
「ファイトー!」「ナイファイ!」。
16よっしゃー!/ あー!感嘆系
意味
結果に対する感嘆。「よっしゃー!」(的中)、「あー!」(外れ、落胆)。
タイミング
ゴール瞬間。
由来
一般的な反応。ボートピア観戦記には「『あ〜』とか落胆の声はよく聞くが、喜んでいる声を聞いたことはない」という観察もあり、つまり「あ〜」が圧倒的多数。
派生形
「やったー!」「終わったー!」「ふざけんなー!」。

ネット民の意見・あるある

Yahoo 知恵袋や note を巡回すると、初心者の戸惑い体験は驚くほどパターンが揃っている。「最初に行ったとき、何を叫んでるか分からなかった」── これが定番の感想。差し・まくり・ツケマイといった戦法用語を知らないと意味が掴めない、という声が主流で、「叫ぶおじさんはどこの競艇場にもいる」「第一ターンマーク前を陣取って叫んでいる」という観察も繰り返し見かける。

古参の「あるある」も面白い。「みんな全部外してるんじゃないかと疑惑が沸く」(ボートピア観察記)、戸田で 2 連単 6,000 円配当を当てた直後に知らないおじさんが抱きついてきた、浜名湖で外して気絶した男性が戸板で運ばれた ── このあたり、独特な空気感が漂ってくる。客層は「年配男性が多い」が定型観察だが、近年は平和島のように CM 効果で明るくなり家族連れも増えた場もあるし、Mooovi (浜名湖・桐生など) 併設場は治安・雰囲気とも良好で、初心者デビューに向く。

NG 掛け声 ─ 法的線引きとマナー

掛け声と「ヤジ」「罵声」の境界線は曖昧で、ファン文化の一部として許容される範囲と、明確な誹謗中傷は法的にも線引きされている。ここは少し丁寧に扱いたい。

— 完全 NG ・ 法的リスクのある掛け声 —
以下は 名誉感情侵害・侮辱・名誉毀損 として訴訟リスクのある言動。場内であっても、絶対に叫んではいけない。

グレーゾーン・マナー違反

違法ではなくても、現代の競艇場では「ヤジ」「罵声」扱いされるもの: 「やる気あんのか!」「辞めちまえ!」「やる気ないなら泳いで帰れ」「何年ボート乗っとんじゃ!」、男女混合戦での性別批判など。過激なヤジが選手の精神を追い詰めた事例も報告されており、一部のイン屋戦法を取る選手には罵声が集中して、本人が「精神的に限界です」と発信した事案もある。金を賭けているのは観客の自己責任で、選手の人格を否定する権利は誰にもない。飲酒過剰での絶叫、1 マーク前の独占、配信・SNS での選手呼び捨ても避けたい行動。

競艇場別の傾向

「住之江は関西弁混じる」「江戸川は声が通らない」のような会場固有の掛け声差異はネット上では明確には見つからなかった。代わりに、観客と水面の距離・雰囲気・客層から導かれる傾向を整理する。

1 マークが近い場 ─ 声が直接届く

競艇場1 マーク幅員特徴
戸田37m (全国最狭タイ)日本一水面が狭い。声が直接届く。
平和島37m (戸田と同じ最狭タイ)都内アクセス良好で観客密度が高い。
尼崎ピット帰着時の選手と観客の距離が極めて近く、エールが届きやすい。
芦屋53m (全国最広)声は届きにくい。穏やかな雰囲気。

江戸川・ナイター場・関西関東

江戸川は日本で唯一河川 (中川) を使う場で、風と波が強く声が散りやすい環境。大村 (通年ナイター) や桐生 (ナイター発祥) は観客層が仕事帰りの社会人・カップル寄りになり、おじさん文化のヤジは減る傾向。「叫ぶ場」というより「観る場」の側面が強い。関西圏 (住之江・尼崎・びわこ) は関西弁混じりの「させや〜!」「まくれや〜!」が散見される観察ありで、関東は標準語イントネーション寄り ── これは公営競技に限らない地域文化のグラデーションそのもの。

「させー!」「まくれー!」は、戦法名の命令形。
知れば叫べる、叫べば競艇場が一段楽しくなる。

初心者の覚え方 Tips

最初に覚えるべき 3 つの掛け声

  1. 「頑張れー!」 ── どんな状況でも使える、選手にも好印象 (元レーサー証言済み)
  2. 「させー!」 ── 内側コース (2-3 号艇) を本命にしたら、1 マーク前に
  3. 「まくれー!」 ── 外側コース (3-6 号艇) を本命にしたら、1 マーク前に

「させー」「まくれー」を使い分けるだけで、いきなり「分かってる人」に見える。買い目に合わせて選ぶのがコツ。

レースの流れ別 ─ 掛け声タイミング

フェーズ適切な掛け声
待機行動中 (ピット離れ〜進入決定の約 2 分)「頑張れー!」「(選手名)ー!」 ── 声が一番届きやすい時間
スタート直前 (大時計が 0 に近づく 10 秒前)場内が静まる瞬間。叫ぶより固唾を呑む派が多い
1 マーク進入時 (最大の見せ場)「させー!」「まくれー!」「行けー!」「押さえろー!」 ── 場内最高ボルテージ
直線・2 マーク「行けー!」「抜けー!」「戻せー!」
最終直線・ゴール手前「頼むぞー!」「そのままー!」「持ってー!」
ゴール後・ピット帰着「ナイスファイト!」「(選手名)ー!」 ── エールで締めるのがマナー

自宅観戦 (テレボート) でも叫んでいいか

結論: 叫んでもいい、ただし家族・近隣に配慮。一人観戦なら「させー!」「まくれー!」全開で OK。配信を見ながら X で「させ!」「まくれ!」と打ち込むスタイルも近年定着している。

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— 参考文献・出典 —

シリーズについて: 競艇カルチャーシリーズは、データではなく文化の側面から競艇の魅力を伝える試みです。今後「競艇場グルメ」「選手応援横断幕のルール」などを予定。/ 最終更新: 2026-05-28

「させー!」と叫べる人になるアプリ。

掛け声を覚えると、競艇場の景色は一段変わる。BOATCRAFT は AI × データで予想を作る iOS アプリ。23 のつまみで自分用の予想ロジックを設計でき、内コース重視・展示重視・荒天向けなど、当日のコンディションに合わせて一発切り替え。「させー!」と叫べる根拠を、データで持てる。

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