問い ── 「①が飛んだら荒れる」は本当か
まず言葉を揃える。本記事の①=1号艇(スタートで最も内側の枠から出る艇)だ。競艇では最も有利で、"本命"の代名詞。ファンの間ではこう言われる ── 「①は堅い。でも一度飛ぶと荒れる」。この"飛んだら荒れる"を、実データで解剖する。①が1着を逃したとき、①自身はどこまで沈むのか。そして代わりにどの号艇が1着を奪うのか。
検証方法
- データ:1999年〜2026年・全国24会場の約118万レース(1,178,869レース)(BOATCRAFTデータベース)
- ①=1号艇で統一(賭ける側が見る「艇番」ベース)。「飛ぶ」=①が1着を取れなかったレース
- 浮上艇=そのとき代わりに1着になった号艇。着順1〜6を正常集計、失格・転覆・返還等は着外として扱う。①が出走そのものをしなかったレース(全体の0.2%程度)は集計対象から除外した
- 統計検定:主要な比較には2標本比率検定(z検定)を用いた。z値が大きいほど、その差が偶然で生じた可能性は低い
前提 ── 「①は堅い」は"最近の常識"だった
意外に知られていないが、①の強さは時代とともに激変している。27年をならすと①の1着率は約41%だが、年代で切ると別世界だ。
| 年代 | ①(1号艇)の1着率 |
|---|---|
| 1999〜2004 | 23.4% |
| 2005〜2010 | 27.9% |
| 2011〜2015 | 40.5% |
| 2016〜2020 | 52.3% |
| 2021〜2026 | 54.7% |
1999年は23%、今は55%。25年で①の1着率は2倍以上に伸びた。ボート・モーターの整備規則やスタート展示の整備で「イン有利」が年々強まった結果だ(→検証ラボ #13 イン率の歴史)。だから「①が飛ぶ」の"重み"も今と昔では違う。以下は直近5年(2021〜)を主役に見ていく。
結論① ── ①は負けても"消えない"
直近5年、①(1号艇)自身の着順分布はこうだ。
| ①の着順 | 割合(全レース中) |
|---|---|
| 1着(逃げ切り) | 54.7% |
| 2着 | 17.4% |
| 3着 | 9.0% |
| 4着 | 7.0% |
| 5着 | 5.9% |
| 6着 | 4.8% |
| 着外(失格・転覆等) | 1.2% |
①が1着を取るのは54.7%。逃すのは45.3%。ここまでは当たり前。だが注目は負けた時の①の居場所だ。①が1着を逃したレースのうち、約38%は①が2着、さらに約20%は3着。合わせて約58%は、①は負けても2〜3着に残っている。①が本当に着外へ消えるのは、全レースのわずか約19%にすぎない。
結論② ── 浮上は「内から外へ、順番に」
本題だ。①が1着を逃したとき、代わりに1着を奪ったのはどの号艇か(直近5年)。
きれいな階段だ。②が約31%で最多、続いて③28%・④22%。②③だけで約6割を占める。⑤⑥の出番は合わせて2割弱しかない。①が飛んでも、浮上するのは"隣から順番"で、いきなり大外が突き抜けるわけではない。この傾向は27年通しでもほぼ同じ(②28.6%→③24.6%→④21.2%→⑤14.5%→⑥11.1%)で、時代を超えて安定している。ただし、この"内寄り"の度合い自体は年々強まっている ── その詳細は後述する。
結論③ ── ①が負けた時に多いのは【②③が1着・①が2着】
①が1着を逃したレースで、実際に最も多く出た3連単の型がこれだ(27年集計・①が1着を逃した全レース中)。
| 3連単の型 | 読み方 | 出現率 |
|---|---|---|
| 2 - 1 - 3 | ②頭・①2着・③3着 | 3.2% |
| 2 - 1 - 4 | ②頭・①2着・④3着 | 2.9% |
| 3 - 1 - 4 | ③頭・①2着・④3着 | 2.3% |
| 2 - 1 - 5 | ②頭・①2着・⑤3着 | 2.3% |
| 3 - 1 - 2 | ③頭・①2着・②3着 | 1.9% |
| 2 - 1 - 6 | ②頭・①2着・⑥3着 | 1.9% |
| 3 - 1 - 5 | ③頭・①2着・⑤3着 | 1.9% |
| 2 - 3 - 1 | ②頭・③2着・①3着 | 1.8% |
| 2 - 3 - 4 | ②頭・③2着・④3着 | 1.7% |
一目瞭然 ── 上位はほぼ「2-①-X」「3-①-X」。つまり②か③が1着、①はすぐ後ろの2着。①が飛ぶ=①を消す、ではない。①は2着に残りながら、1着だけ②③に入れ替わるのが、データが示す傾向だ。「②が1着・③が2着・①が3着」という、①がさらに一段落ちる型もあるにはあるが、出現率は1.8%と一段低い。
では"本当に①が消えた"時は?
①が着外に沈んだ(3着以内に絡めなかった)レースだけを抜き出すと、1着は②27.6%→③28.1%→④24.4%→⑤12.8%→⑥7.1%と、やはり内側が優勢だった。「①が完全に飛んだ=大外の大穴」というイメージも、実は幻想に近い。荒れても、まず疑うのは②③、次いで④。⑤⑥の一撃はあくまで例外だ。
I.時代とともに、浮上の主役はより"内寄り"になった
前提で見た通り、①自身の1着率は27年で23%台から55%台へと大きく伸びた。では①が飛んだ時に浮上する艇の顔ぶれも、同じように"内寄り"へ変わってきたのだろうか。①の1着率がまだ低かった1999〜2010年と、直近5年(2021〜2026年)を、同じ「①が1着を逃した時の浮上艇」という切り口で比べてみる。
| 期間 | ② | ③ | ④ | ⑤ | ⑥ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1999〜2010年 | 25.8% | 22.6% | 20.3% | 16.6% | 14.7% |
| 2021〜2026年 | 30.9% | 27.6% | 22.1% | 12.6% | 6.8% |
方向は一貫している。②③④は割合を増やし、⑤⑥は減らした。中でも⑥の下げ幅が大きく、14.7%→6.8%とほぼ半分になっている。「②は⑥の何倍浮上しやすいか」という比率で見ると、1999〜2010年は1.76倍だったのが、直近5年では4.54倍まで開いた。①自身が強くなったのと同じ27年間で、①が飛んだ後の"次点争い"もまた、内側に寄っていったことになる。
①が強くなった27年間で、この傾向自体が年々強まってきた。
II.会場によって、浮上のパターンは変わるのか
この"内寄り"の傾向は、全国どの会場でも同じ強さで出ているのか。直近5年、①が1着を逃したレースを24会場別に集計し、隣接する②③が浮上する割合(=②+③の合計)を会場ごとに比べた。
| 会場 | N | ② | ③ | ④ | ⑤ | ⑥ | ②+③(隣接) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 福岡 | 5,047 | 33.9% | 33.3% | 19.6% | 8.6% | 4.5% | 67.2% |
| 三国 | 5,310 | 33.1% | 30.0% | 19.5% | 10.5% | 6.9% | 63.2% |
| 徳山 | 4,360 | 36.4% | 25.6% | 20.6% | 11.0% | 6.4% | 62.0% |
| 住之江 | 4,914 | 33.2% | 27.3% | 21.4% | 11.9% | 6.2% | 60.5% |
| 津 | 4,759 | 33.6% | 26.8% | 21.4% | 12.1% | 6.1% | 60.4% |
| 大村 | 4,542 | 32.1% | 28.3% | 21.5% | 11.7% | 6.4% | 60.4% |
| 江戸川 | 5,685 | 33.4% | 26.5% | 22.4% | 12.5% | 5.2% | 60.0% |
| びわこ | 5,089 | 31.6% | 28.3% | 22.2% | 12.9% | 5.0% | 59.9% |
| 唐津 | 5,240 | 32.2% | 27.2% | 21.9% | 12.6% | 6.1% | 59.4% |
| 浜名湖 | 5,845 | 30.4% | 28.5% | 19.7% | 13.1% | 8.2% | 58.9% |
| 丸亀 | 5,066 | 31.4% | 27.3% | 21.8% | 12.6% | 6.9% | 58.7% |
| 鳴門 | 5,731 | 29.6% | 28.6% | 22.1% | 13.4% | 6.3% | 58.2% |
| 多摩川 | 5,445 | 32.2% | 26.0% | 23.0% | 12.6% | 6.2% | 58.2% |
| 尼崎 | 4,607 | 29.2% | 28.9% | 22.6% | 12.8% | 6.5% | 58.1% |
| 児島 | 5,114 | 30.3% | 27.8% | 22.0% | 12.6% | 7.3% | 58.1% |
| 宮島 | 5,193 | 30.0% | 27.8% | 21.7% | 13.5% | 7.0% | 57.8% |
| 戸田 | 6,633 | 29.1% | 28.3% | 23.7% | 12.3% | 6.5% | 57.4% |
| 平和島 | 5,922 | 31.0% | 25.6% | 21.8% | 13.5% | 8.1% | 56.7% |
| 下関 | 4,534 | 29.9% | 26.5% | 22.7% | 12.3% | 8.5% | 56.4% |
| 若松 | 4,997 | 28.5% | 27.6% | 22.5% | 12.9% | 8.5% | 56.1% |
| 芦屋 | 4,561 | 28.0% | 27.5% | 23.9% | 13.2% | 7.5% | 55.5% |
| 蒲郡 | 5,262 | 28.2% | 27.2% | 24.6% | 13.0% | 7.0% | 55.4% |
| 常滑 | 5,178 | 28.5% | 25.5% | 23.3% | 14.1% | 8.7% | 54.0% |
| 桐生 | 5,686 | 27.0% | 26.2% | 24.2% | 15.2% | 7.4% | 53.2% |
※①が1着を逃したレースにおける1着艇の内訳(%)。直近5年(2021-07-09〜2026-07-08)。
最も"内寄り"が強いのは福岡(67.2%)で、②③どちらか一方に極端に偏らず、②33.9%・③33.3%とほぼ同格で浮上している。逆に最も緩やかなのは桐生(53.2%)で、④が24.2%・⑤が15.2%と、他の会場より外側の艇にも浮上のチャンスが回っている。桐生は風の影響を受けやすい内陸水面として知られ、隊列が乱れやすいことと関係している可能性がある。なお、この"浮上の内寄り度"のランキングは、検証ラボ #16 の会場別の固さ(①自身の1着率)とは必ずしも一致しない。たとえば芦屋は固さでは上位だったが、浮上の内寄り度では中位以下(55.5%・24会場中21位)にとどまる。「①が来るかどうか」と「①が来なかった時に誰が来るか」は、別の軸で会場差が出るということだ。会場ごとの傾向は24会場ガイドにも詳しい。
傾向 ── ①が不安な回に見える浮上パターン
- ①は2〜3着に残りやすい:飛んでも2〜3着に残る確率が高く、①が完全に着外へ消えるのは27年データでも少数派
- 1着は②③に集中しやすい:①が1着を逃した回は②③号艇が1着になる傾向が強く、①はその後ろの2着に来やすい(ただし①が完全に沈んだ回に限ると②③の優劣差はほぼ消える)
- 大外の1着は少数派:①が消えても⑤⑥が1着になるケースは少なく、浮上はまず④までにとどまることが多い
- この傾向は時代・会場で強さが違う:"内寄り"の度合いは27年で強まっており、会場によっても福岡67%〜桐生53%まで差がある
結論
- 「①は堅い」は最近の話 ── ①の1着率は1999年23%→直近55%へ、25年で2倍以上に伸びた(z=226.7で統計的に確実)。
- ①は負けても消えない ── 直近5年、①が1着を逃す45.3%のうち約58%は①が2〜3着に残る。着外は全体の約19%だけ。
- 浮上は内から順番 ── ①が飛んだ時の1着は②30.9%→③27.6%→④22.1%→⑤12.6%→⑥6.8%。②③で約6割、この差は統計的に確実(z=85.0)。
- 多いパターンは【②③が1着・①が2着】 ── ①はそのまま2着に残り、1着だけ②③に入れ替わるのがデータの答え。ただし①が完全に沈んだ場合に限ると、②と③の優劣は統計的に有意ではなくなる。
- "内寄り"傾向は27年で強まった ── ②が⑥の何倍浮上しやすいかで見ると、1999〜2010年の1.76倍から直近5年は4.54倍まで拡大した。
- 会場差もある ── 隣接艇(②③)の浮上割合は福岡67.2%〜桐生53.2%まで開き(z=14.8)、①自身の固さ(検証ラボ #16)とは別の軸で会場差が出る。
データが言えること
- ①が1着を逃した時、浮上する1着は②30.9%→③27.6%→④22.1%→⑤12.6%→⑥6.8%と内から順(z=85.0、p<0.0001)
- ①が1着を逃しても、その58.2%は①自身が2〜3着に残る(完全に着外へ消えるのは全体の18.9%)
- "内寄り"の傾向は27年で統計的に確実に強まった(②/⑥倍率が1.76倍→4.54倍、各艇ともp<0.0001)
- 会場差も統計的に確実(隣接②③の浮上割合が福岡67.2%〜桐生53.2%、z=14.8)
言いすぎ注意
- ①が完全に沈んだ場合に限ると、②と③の優劣差は統計的に有意ではない(z=-1.84, p=0.066)
- 本記事は艇番(枠番)ベースの集計。前づけ等でコースが艇番と異なる回は反映していない
- 傾向は「平均」であり、個別レースは水面・風・メンバー構成で大きく変わる
- 的中や利益を保証するものではなく、傾向の解説にとどまる
差されて2着に残り、隣が繰り上がるだけだ。
データに関する注記
- 対象は1999-04-30〜2026-07-09・全国24場の1,178,869レース(BOATCRAFTデータベース)。①=1号艇(艇番1)。着順1〜6を正常、失格・転覆・返還等は着外として集計。①が出走そのものをしなかったレース(668件、全体の0.2%程度)は集計対象から除外した
- 「直近5年」は2021-07-09〜2026-07-08の275,578レース(うち①が1着を逃したのは124,724レース)。時代比較に使った「1999〜2010年」は446,296レース中、①が1着を逃した330,199レース(うち浮上艇が判明した330,192レースで集計)
- 年代推移・着順分布・浮上艇・会場別クロス集計は本文の表のとおり
- 統計検定:2標本比率検定(z検定)。z値が大きいほど、その差が偶然で生じた可能性は低い
- 本記事は傾向の解説であり、個別レースの的中や利益を保証するものではない
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検証データ:1999-04-30〜2026-07-09・全国24場 1,178,869レース(BOATCRAFTデータベース)/ 集計指標:①の年代別1着率・①の着順分布・①が1着を逃した時の浮上艇と3連単型・会場別クロス集計 / 統計検定:2標本比率検定(z検定)/ 初出:2026.07.06 / 再集計・深掘り:2026.07.09(統計検定・時代比較・会場別クロス集計を追加、DB更新により数値を最新化)