— この記事の要点 —

「昔の 1 号艇は 6〜7 割」という定説を、2002 年からの 約 100 万レースで検証した結論:記憶は逆だった。① 2002 年の 1 号艇 1 着率はわずか 23.2%(約 4 回に 1 回)。そこから一直線に上昇し、2020 年前後で 55% に到達して頭打ち。昔のインは むしろ弱かった。② 理由は二つ。要因 1:インそのものが弱かった── 進入 1 コースの 1 着率も 26.5%→55%。まくり全盛で、インを取っても外から差された。要因 2:前付けでインを奪われていた── 1 号艇がインを確保できた割合は 73.7%→99%。前付け全盛期(2002〜2009)、1 号艇は インを守れた時 29.3% / 奪われた時 12.8%勝率が半分以下に沈んだ。③ 3 つの制度改革(待機行動改正 2009・持ちペラ廃止 2012・出力低減モーター 2014)で「アウト屋が消え・インが守られ・まくりが届かなく」なり、1 号艇は王者になった。④ 「江戸川 8 割」は 24 年間で一度もなかった(2002 年 34.8% → 直近でも 47〜51%)。

定説 ── 「持ちペラ時代の 1 号艇は強かった」

長く競艇を見てきたファンは、しばしばこう言う。「昔の 1 号艇はもっと勝った」「持ちペラの頃は 6 割、7 割が当たり前」「江戸川は 8 割なんて時代もあった」。そして決まって、こう続く。「あの頃は駆け引きがあった。前付けでコースを奪い合って、引き波にハメて、ダンプで弾き飛ばして……今みたいに枠なりで大人しく回るレースじゃなかった」と。

この昔話には、二つの主張が混ざっている。ひとつは 「昔の 1 号艇(イン)は勝率が高かった」という数字の話。もうひとつは 「昔のレースは駆け引きが激しかった」という雰囲気の話。後者はロマンの領域だが、前者は ── データで白黒つけられる。BOATCRAFT のデータベースには 2002 年からの全国 24 会場、のべ約 100 万レース分の結果が入っている。さっそく遡ってみよう。

検証方法 ── 「枠番」と「進入コース」を分けて数える

今回のカギは、「枠番」と「進入コース」を区別することだ。

そこで 3 つの指標を、2002〜2025 年の各年で計算した。

  1. 進入 1 コースの 1 着率:実際にインを取った艇が勝つ確率(=インというコースそのものの強さ
  2. 枠番 1 号艇の 1 着率:1 号艇が勝つ確率(=みんなが「1 号艇」と呼ぶときの勝率
  3. 1 号艇のイン取得率:1 号艇が進入でインを確保できた割合(=前付けで奪われずに済んだ割合

対象は 2002-01-01〜2025-12-31、全国 24 会場、着順が 1〜6 で確定したレコード。この 3 本を並べると、「1 号艇がなぜ昔は弱く、今は強いのか」が分解できる。

検証① ── 1 号艇の 1 着率、20 年史

まず結論のグラフから。赤が 1 号艇(枠番 1)の 1 着率、金が 進入 1 コースの 1 着率、青が 1 号艇のイン取得率。縦の点線は、後で効いてくる 3 つの制度改革だ。

1コース率の24年史。1号艇の1着率は2002年23.2%から2025年54.6%へ一直線に上昇。進入1コースの1着率も26.5%から55%へ。1号艇のイン取得率は73.7%から99%へ。2009待機行動改正・2012持ちペラ廃止・2014出力低減モーターの縦線でイン取得率が跳ね上がる
図:自前データ 2002–2025・のべ約 100 万レース集計。1 号艇 1 着率は 23.2%→54.6% へ。
1号艇(枠番1)
1着率
進入1コース
1着率
1号艇の
イン取得率
200223.2%26.5%73.7%
200524.4%27.6%80.8%
200928.7%33.0%81.9%
201239.0%40.2%95.0%
201544.8%45.6%97.3%
201853.4%53.9%98.4%
202554.6%55.0%98.9%

2002 年、1 号艇の 1 着率はわずか 23.2%。約 4 回に 1 回しか勝てていない。「6 割、7 割」どころか、その 3 分の 1 だ。そこから年を追うごとに一直線に上がり、2018〜2020 年あたりで 55% に到達して、現在は 54.6% で頭打ちになっている。

昔の 1 号艇は、6〜7 割どころか 23%
「強かった」のではなく、むしろ 弱かった

「6〜7 割」という記憶は、おそらく 今の数字(55%)を、さらに大きく覚え違えたものか、あるいは 大村のような一部のイン天国の会場の印象が、全体の記憶にすり替わったものだろう。では、なぜ昔のインはこんなに弱かったのか。理由は二つある。

検証② ── 要因 1:インというコースそのものが弱かった

表の真ん中の列、進入 1 コースの 1 着率を見てほしい。これは「枠番 1 号艇」ではなく 「実際にインを取った艇」が勝つ確率だ。前付けの影響を外して、インというコースそのものの強さを測っている。

その数字も、2002 年は 26.5%。今の 55% の半分以下だ。つまり昔は、誰がインを取ろうと、インというコース自体が勝ちにくかった。理由は、当時の競艇が 「まくり全盛」だったから。

当時は 阿波勝哉・澤大輔といった名うての「アウト屋」が活躍し、6 コースからまくる派手なレースが現実的な戦法として成立していた。ベテランが語る「駆け引きの競艇」は、この "インが絶対ではない" 構造があってこそだった。雰囲気の話のほうは、実は正しい。

検証③ ── 要因 2:前付けで、インを奪われていた

もう一つの要因が、いよいよ 前付けだ。表の右の列、1 号艇のイン取得率を見ると ── 2002 年は 73.7%。つまり昔の 1 号艇は、約 4 回に 1 回、前付けでインを他艇に奪われていた。今(98.9%)とは別世界だ。

「コース取りの激しさ」を別の角度から見てみる。1 艇でも枠と違うコースに動いたレースの割合を年ごとに出すと、こうなる。

コース取りが起きたレースの割合
200281.6%
200965.4%
201051.9%
201238.1%
201826.7%
202519.8%

2002 年は 5 レースに 4 つでコース取りが起きていた。まさに「駆け引きの競艇」だ。それが今は 5 レースに 1 つ。ベテランの記憶どおり、昔のレースが格闘技みたいに激しかったのは、本当だった。

では、インを奪われた 1 号艇はどうなったか

ここが、この記事のいちばん面白いところだ。前付け全盛期(2002〜2009 年)の 1 号艇を、「インを守れたレース」と「前付けでインを奪われたレース」に分けて、勝率を比べてみる。

1号艇の状況(2002〜2009)対象走数1着率
インを守れた233,67429.3%
前付けでインを奪われた58,43412.8%

インを奪われた瞬間、1 号艇の勝率は 29.3% → 12.8% へ。2.3 倍の差、ほぼ半分以下に沈む。当時の 1 号艇にとって、前付けは「されたら終わり」の死活問題だった。「4 号艇でも前付けしてインを取った奴が勝つ=前付けで勝負が決まっていた」── ベテランが語るその実感は、データにくっきり刻まれている。

昔の 1 号艇が弱かったのは、
① インそのものが弱く、② そのインすら 前付けで奪われていた ── 二重苦だった。

検証④ ── 「江戸川 8 割」は、本当にあったのか

ベテランの証言で最も具体的だったのが 「江戸川は 1 号艇 8 割の時代もあった」。これも名指しで確かめよう。江戸川(荒れ水面で有名な日本唯一の河川コース)の 1 号艇 1 着率を、年ごとに出した。

江戸川 1号艇 1着率
200234.8%
200839.3%
201541.0%
2024(24年間の最高)51.2%
202546.8%

江戸川の 1 号艇 1 着率は、2002 年で 34.8%、24 年間で最も高かった年(2024 年)でも 51.2%8 割に達した年は、一度もない。それどころか江戸川は、今でも全国で 1 号艇が勝ちにくい会場のひとつだ(全国平均 55% に対し 47〜51%)。荒れ水面という性格は、20 年前も今も変わっていない。

「江戸川 8 割」は、24 年間どこにも存在しなかった。
記憶のなかだけで、インは 勝ち続けていた

なぜインは王国になったのか ── 3 つの制度改革

では、23% だった 1 号艇は、どうやって 55% の絶対王者になったのか。グラフの縦線、3 つの制度改革が分岐点だ。

① 2009 年 5 月:待機行動の改正 ── 前付けが死んだ

スタート前の蛇行や時間稼ぎが禁止され、先に基準線に達した艇からイン順に並ぶルールになった。これで 前付け(助走を取ってのコース取り)が事実上できなくなり、「枠なり進入」が主流に。グラフの青線(イン取得率)と、コース取り率が 2009→2012 年にかけて急変しているのが、この効果だ(コース取り率 65%→52%→38%)。

② 2012 年 4 月:持ちペラ廃止 ── アウト屋が消えた

選手が自前で持ち込んでいたプロペラが廃止され、ボート場が貸し出す共通ペラに。伸び型に磨き上げた「まくり専用兵器」が使えなくなり、機力が均一化した。アウトから一発のまくりで勝つスタイルが成立しにくくなり、「アウト屋」は絶滅危惧種になっていく。

③ 2014 年 12 月:出力低減モーター ── まくりが届かない

最高出力を 1 馬力下げたモーターが導入され、3 周のタイムが約 2 秒遅くなった。パワーが落ちたぶん、外から差し・まくりが「届かない」。インが先マイしてしまえば、後ろからは抜けない ── 逃げ天国の完成だ。

この 3 つが重なって、「アウト屋が消え」「1 号艇がインを守れるようになり」「まくりが届かなくなった」。インが弱い理由(要因 1)も、奪われる理由(要因 2)も、両方が同時に解消された。だから 1 号艇は 23% から 55% へ、20 年かけて駆け上がったのだ。これは言い換えれば、「アウト屋と駆け引きが消えていった 20 年」の記録でもある。

結論

  1. 「昔の 1 号艇は 6〜7 割」は記憶違い ── 2002 年の 1 号艇 1 着率はわずか 23.2%。今(54.6%)の半分以下で、むしろ昔のインは弱かった。
  2. 弱かった理由は二重苦 ── ① インそのものが弱い(進入 1 コース 1 着率も 26.5%=まくり全盛)+② 前付けでインを奪われる(イン取得率 73.7%)。奪われた 1 号艇の勝率は 12.8% まで沈んだ。
  3. 「江戸川 8 割」は 24 年間ゼロ ── 江戸川の 1 号艇は 2002 年 34.8%、最高でも 51.2%。8 割の年は存在しない。荒れ水面の性格は今も昔も同じ。
  4. 王国を作ったのは 3 つの制度改革 ── 待機行動改正(2009)で前付けが死に、持ちペラ廃止(2012)でアウト屋が消え、出力低減(2014)でまくりが届かなくなった。
  5. でも「駆け引きの競艇」は本当にあった ── 2002 年はコース取り率 81.6%(5 レースに 4 つ)。ベテランの語る "格闘技みたいな競艇" は、データもはっきり認めている。

ベテランの昔話のうち、「勝率」の記憶は、データと逆だった。1 号艇は昔のほうが弱かった。でも ── 前付け、コースの奪い合い、引き波、ダンプ。あの "駆け引きの競艇" が確かに存在したことは、コース取り率 81.6% という数字が、むしろ証明している。記憶違いだったのは勝率だけで、あの時代の迫力そのものは、本物だった

思い出は、美化される。
でも「あの頃は駆け引きがあった」は ── データも認めている。

データに関する注記

検証データ:2002-01-01 〜 2025-12-31、全国 24 会場・のべ 約 100 万レース(BOATCRAFT データベース)/ 指標:進入 1 コース 1 着率・枠番 1 号艇 1 着率・1 号艇イン取得率・コース取り発生率・前付け期の 1 号艇勝率分解・江戸川の年次 1 号艇 1 着率 / 最終更新:2026-06-16

「昔は強かった」も、データで確かめる。

競艇は 20 年で別物になった。インが弱い時代も、まくりが届いた時代も、確かにあった ── そして今は逃げ天国だ。ルールが変われば、勝ち筋も変わる。BOATCRAFT は 選手 × コース × 級別 × モーター × 展示 × 風速 × 会場のクセ を統合し、"今の競艇" にチューニングした AI が毎レース各艇の確率を計算する。23 つまみ で、自分の狙いに合わせて予想を組み立てよう。

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