問い ── なぜ①と先頭を並べるのか
yutakacraftは競艇のBOATCRAFT、オートレースのAUTOCRAFT、競輪のKEIRINCRAFTという3つのAI予想アプリを、それぞれ独自のデータベースで運営している。3競技を同時に見ていると、ある共通点に気づく。どの競技にも「まず疑うべき有利な位置」が存在する。競艇なら内側の①、競輪ならライン(隊列)の先頭だ。だが、この2つを同じものとして語ってよいのか。本記事では優劣を決めるためでなく、「有利」という言葉が競技ごとにどう違う中身を持つのかを、実データで観察する。
検証方法
- BOATCRAFT側:1999年〜のBOATCRAFTデータベース、全国24会場。①=1号艇(艇番1、最も内側からスタート)。直近5年(2021年〜)を主な比較対象とする
- KEIRINCRAFT側:2021-06-22〜2026-07-13のKEIRINCRAFTデータベース、finishedレース137,657走(男子競輪のみ)。先頭=ライン(隊列)の最前で走る選手
- 両者とも着順1〜6(または1〜9等、出走数に応じる)を正常集計。失格・落車等は着外として扱う
- 本記事は「どちらが堅いか」の優劣づけを目的としない。同じ"有利"という言葉の中身が競技構造でどう変わるかの観察記事である
競艇の①(1号艇) ── 位置そのものが持つ有利さ
競艇は6艇が横一線でスタートし、最初のターンマークまでの距離が艇番ごとに違う。①(1号艇)は最も内側、つまり物理的に最短距離を走れる位置だ。直近5年のBOATCRAFTデータベースでは、①の成績はこうなる。
| 指標 | 直近5年(2021〜) | 27年全期間 |
|---|---|---|
| 1着率 | 55.4% | 41.5% |
| 2連対率(1〜2着) | 73.0% | 60.0% |
| 3連対率(1〜3着) | 82.1% | 71.9% |
①の有利さの本質は、その艇に誰が乗っていても位置そのものが持つ有利さだという点にある。同じレースの中で他の艇がどんな選手構成であっても、①というポジション自体の優位は大きく揺らがない。会場によって①の強さは変わるが(検証ラボ #10)、それはコースの水面特性の違いであって、「①が誰と一緒に走っているか」で有利さが変わるわけではない。
競輪の先頭 ── 関係性の中で強さが変わる有利さ
競輪には「ライン」という、選手同士が事前の関係性(所属地区や師弟関係など)をもとに形成する隊列がある。ラインの先頭に立つ選手は、後ろの選手たちに風よけをしてもらいながら位置を守り、終盤で自らのライン内の仲間に競走を組み立ててもらう。KEIRINCRAFTデータベース(2021年〜、男子競輪・finishedレース137,657走)で、ライン内の位置別成績を見るとこうなる。
| ライン内の位置 | n | 1着率 | 2連対率 | 3連対率 |
|---|---|---|---|---|
| 先頭 | 286,658 | 21.0% | 36.2% | 48.1% |
| 番手 | 286,658 | 15.0% | 32.8% | 46.5% |
| 単騎 | 72,443 | 6.8% | 14.3% | 26.0% |
| 3番手 | 130,228 | 2.6% | 10.5% | 31.7% |
| 4番手以降 | 14,596 | 1.1% | 4.8% | 16.4% |
「先頭」は確かに他のどの位置より1着率が高い。しかしこの"先頭"というくくりの中に、単騎(仲間なし)からライン人数の多い先頭まで、まったく違う条件が混ざっている。ライン人数別に先頭選手の成績を出し直すと、その違いがはっきり現れる。
| ライン人数 | n | 1着率 | 2連対率 | 3連対率 |
|---|---|---|---|---|
| 1人(単騎) | 72,443 | 6.8% | 14.3% | 26.0% |
| 2人 | 156,430 | 15.2% | 27.4% | 39.3% |
| 3人 | 117,090 | 25.8% | 44.5% | 56.7% |
| 4人 | 11,885 | 44.4% | 65.6% | 76.2% |
| 5人 | 1,070 | 67.8% | 85.4% | 90.9% |
| 6人 ※参考値 | 161 | 82.6% | 95.7% | 96.9% |
| 7人 ※参考値 | 22 | 95.5% | 95.5% | 95.5% |
単騎(仲間なし)の先頭は1着率6.8%。7車立てなら数字の上での"フェアな取り分"は1/7=14.3%だから、単騎の先頭はむしろそれを下回っている。仲間の風よけがない先頭は、他の選手に楽をさせているだけの不利な位置ですらある。そこから2人・3人とラインが育つごとに数字は跳ね上がり、4人ラインで44.4%、5人ラインでは67.8%に達する。同じ「先頭」という言葉が、仲間の数だけでまったく別の位置に変わる。この"何人で作っているか"による強さの変動は、①には存在しない性質だ。
観察 ── 「固定された有利さ」と「可変の有利さ」
①も先頭も「有利な位置」には違いない。しかし、その有利さがどこから来るかを比べると、構造がまったく違うことが見えてくる。
競艇の① ── 位置に固定
- 物理的に最短距離を走れる、レース開始時点で決まっている位置の有利さ
- 同乗する他艇の選手構成によって有利さの大きさが変わることは(会場差を除けば)比較的少ない
- 誰が①に入るかは選手本人の"その日の位置"の話であり、他の選手との関係性を必要としない
競輪の先頭 ── 関係に依存
- 他の選手との事前の関係性(ライン形成)によって初めて生まれる有利さ
- ラインの人数によって強さの大きさそのものが変わる(単騎と大ラインでは別物)
- 先頭を務める選手は、後ろの選手たちの協力があって初めてその有利さを活かせる
言い換えると、①の有利さは「くじ引きに近い、位置の物理学」であり、先頭の有利さは「交渉と信頼で作る、関係の力学」だ。同じ「有利な位置」という言葉を使っていても、BOATCRAFTが①を読むときと、KEIRINCRAFTが先頭・ライン構成を読むときとでは、AIエンジン「テトラ」が見ている"何が効いているか"の中身が根本的に異なる。BOATCRAFTのテトラは位置と単艇の要素を、KEIRINCRAFTのテトラはライン構造(検証ラボ #07)という関係性の要素を、それぞれ重く見ている。
①は位置の物理学、先頭は関係の力学。
データに関する注記
- BOATCRAFT側:1999-04-30〜のデータベース、①(1号艇)の直近5年(2021年〜)272,539件・27年全期間1,161,219件で集計
- KEIRINCRAFT側:2021-06-22〜2026-07-13のデータベース、finishedレース137,657走(男子競輪のみ・ガールズ競輪はライン戦をしないため除外)
- 本記事は競技間の優劣を決めるものではなく、それぞれの競技構造の違いを観察する記事である
- 本記事はyutakacraftの自社3プロダクト(BOATCRAFT・AUTOCRAFT・KEIRINCRAFT)が持つ独自データベースの横断観察であり、他社サービスとの比較を意図するものではない
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結論
- ①の1着率は直近5年で55.4%(BOATCRAFTデータベース27万走)。位置そのものに固定された有利さで、周囲の選手構成による変動は比較的小さい。
- 競輪の先頭は、ラインの人数で別の位置になる(KEIRINCRAFTデータベース28.7万走)。単騎6.8%→2人15.2%→3人25.8%→4人44.4%→5人67.8%と単調に上昇し、単騎は7車立ての"フェアな取り分"14.3%すら下回る。関係性に依存する可変の有利さ。
- 同じ「有利」でも中身は別物。①は位置の物理学、先頭は関係の力学。優劣でなく、構造の違いとして捉えるべき現象。
- この違いは両アプリのAIエンジン「テトラ」が見ている特徴量にも表れている。BOATCRAFTは位置・単艇要素、KEIRINCRAFTはライン構造という関係性要素を重視する。